

第1回目のワークショップのこと。みんな好きなように一通り楽器で自由に遊んだ後、気に入った相手と即興でアンサンブルを披露してもらうことにした。最初は会場の外にいた人もいたけれど、最終的に保護者とスタッフ以外の全員がそれぞれのパフォーマンスを披露した。ジャンベとカホンの息の合ったグルーヴィーなデュオや、マリンバとギロの互いを探りながらのデュオ、なかには椅子から落っこちたり、途中で会場から出てまた入ってくるといったハプニングだらけのものもあったけど、皆が人前での演奏をためらうことなく個々の演奏を披露したのには、本当に驚いた。これほどすぐにアンサンブルが成立するのなら、公演の準備のためのワークショップなど、1、2回あれば十分だろう、などと思ったほどだ。あるお母さんは、「子どもたちの顔が生き生きとしている!」と嬉しそうに語っていた。
その「音遊びの会」が始まる5年ほど前、知的障害者との即興演奏を始めたばかりの私は、彼らの「生(なま)」の表現、いや、表現かどうかも見分けがつかぬギリギリの何かに強く惹き付けられていた。一定のラッパのリズムに「まいにちまいにち」と高い声を繰り返し重ねたもの、様々な楽器を組み合わせて、それぞれ忙しそうに置き換えながら音を出す行為、それらの表現に時々ひどく当惑させられながらも、共に音をぶつけ合いながら、まだ見ぬ世界へとぐいとぐいと扉を押しあけているような感覚を持つこともあった。
同じ頃、1960年代に、フリー・インプロヴィゼーションといわれる、ジャズや民族音楽等のどの即興音楽言語からも自由な音楽の領域を生み出した人達がいたことを知った。その流れをくむ音楽家が、ライブ中に新たな表現を求めて強烈なパフォーマンスを繰り広げていく様を見て、もし、知的障害者と彼らが同じ地点に立って共演することができたなら、相当面白いものが創り出せるのではないか、と思った。
「音遊びの会」のメンバー同士が、表現上の接点を見つけることよりも大変だったのは、それぞれが考える「音楽」を「言葉」で理解し、それを認め合うことだったのかもしれない、と思う。音楽家、知的障害者、保護者、音楽療法家、それぞれがイメージする「音楽」が少しずつ異なったからだ。
ところで、音楽家のデレク・ベイリーは、フリー・インプロヴィゼーションというのは、非常に高度な技術が求められるものであるのと同時に、子供や初心者など誰でもできるものである、と述べている。音楽は、誰のなかにもあるのだ。もちろん、あなたのなかにも。
沼田里衣(音遊びの会代表)
服部監督Q&A(全3回)
第1回 映画制作にあたって○どういうきっかけで音遊びの会を知ったのか?
個人的な関心から「即興」「音楽」「療法」といったキーワードでインターネット検索しているうちに、音遊びの会のことを知りました。ちょうど発足したばかりで公演の企画をしているところでした。
○どうしてこの映画を制作することにしたのか?
知的な障害のある人たちと、音楽家の即興セッションによって、いったいどんな音楽が聴こえてくるのか、興味がありました。そこでなされる議論や、試みの中に、生きていく上での普遍的な発見があるのではないかと思いました。
○映画制作をするに当たって、開始時点で結末は見えていたか?
全く見えていませんでした。この映画については、ひとまず音遊びの会の初期の2つの公演についてまとめています。ドキュメンタリーも即興演奏と同じで、撮影のやめどころが難しいのですが、現在の音遊びの会のゆくえも、まだ目が離せません。
第2回 映画制作中の出来事
○制作期間はどれくらいか?
途中、編集を中断していた時期や上映のための費用を工面していた時期があったため、撮影と編集で2年間くらいです。
○映画制作を行う上でどういった形で制作しようと考えていたか?(映画制作の方法論、距離感など)
あらかじめシナリオを書いて、映像をあてはめるという方法ではなく、音楽が発生する瞬間を待つという方法を選択しました。こちらから積極的に仕掛けたり、インタビューを試みたこともありますが、うまくいきませんでした。
○実際に撮影してみての問題点
待つという方法を選択したのですが、なかなか映画的におもしろそうなことも起こらない日もありました。東京から神戸へ交通費をかけて通っていたこともあり、帰りの新幹線でスタッフの吉村君とずっとどう撮影すれば良いか頭をひねっていました。
○映画になると確信した時のエピソード(上の質問をうけた上で)
結局、映画になると確信したときは、「音の海」公演の本番の撮影をしながらでした。ただ、今度はライブの体験があまりにも素晴らしかったので、映画として編集していくなかで、その素晴らしさをどう伝えればよいか悩むことになりました(笑)。結局、しばらく編集を中断し、時間を置いたうえで再度取り組むことで、現在の形になりました。
第3回 映画の公開にあたって○影響を受けた映画は?
たくさんありますが、1本をあげるならデレク・ジャーマンの「BLUE」です。映画における想像力や音声の重要性を気づかせてくれました。
○「音の城♪音の海」はどんな映画ですか?
エキサイティングな音楽ドキュメンタリー映画です。音遊びの会のメンバーやゲストミュージシャンのパフォーマンスに魅了されること間違いなしです。
○どんな人にこの映画を観てもらいたいか?
音楽が好きな人に。エネルギーを注入したい人に。また知的障害者の方や、その支援をされておられる方にも観てもらいたいです。
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